fc2ブログ

紫陽花

エッセイ
07 /08 2015
紫陽花が雨に濡れていた。
おそらく庭であった場所になのだろう、咲いていた。
淡い色が寂しそうに見える。
おそらく庭…そう書いたのは、壁や門柱がそのままになっていながら、その土地にあるはずの家がなかったからだ。
まだ建物を壊したばかりなのだろう、均されていないのが土の波打ちから伝わって来る。

見てきたものがなくなるのは辛いことだ。
そこにあったものがなくなる、いなくなる、いつも目に入っていたものが消えることは、どこかせつない。
親しい人はもちろんのこと、建物であっても、自然のものでも、目の前から消えるのは寂しい。
それが自分の意思で壊すのでも辛いことなのに、抵抗することもできずなくなってしまうのはどんな想いだろう。

壁に囲まれた家があったであろう場所に、私は思い出を持たない。
ただ車窓に向けた視線がとらえただけだ。
他にも樹木があったような雰囲気はある、それだけ広い土地だった。
しかしその姿はない。
ただ季節だからなのか、紫陽花だけが壁のそばに残っていた。
その淡い色が、雨が、余計に寂しさを感じさせた。

にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ
にほんブログ村
スポンサーサイト



ryoukouno

紘野涼です。
「スワローズ観察日記R」の管理人
仕事はフリーランスでライターやプランナーなどその他もろもろという感じです。
こちらではメインブログ、仕事では書けないようなもの、これまで書き散らかしたものをまとめていこうを思っています。
当サイトに掲載されている文章は、紘野涼に著作権があります。
無断転用、掲載はご遠慮ください。