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キャッチボール

エッセイ
11 /26 2010
先日、乗っていたバスが信号で止まったとき、道沿いにある広場で、小学校の3、4年生だろうか、少年が父親を相手にキャッチボールをしていたのが見えた。
僕が幼いときはごくありふれた風景だったが、最近ではめずらしい。
少年はあまり上手ではないようで、ゆるいボールを父親に投げ、返されたボールを落としていた。
悔しそうにボールを追いかける少年に、父親は身振りで「こうして捕るんだ」と伝えながら笑顔を見せている。
微笑ましいキャッチボールが陽が暮れかかった中で、白球がふわりと放物線を描いていく。

僕も幼い頃、キャッチボールを父とした。
しかし、この日見たような微笑ましいものとは少し違った。
父は「人を楽しませようと思ったら、自分が楽しむことだ」という信念をもっていた。
そのため、キャッチボールの誘いも突然になる。
僕が寝てようが、好きなTV番組を見ていようがお構いなし。
とにかく来い、という誘い方だ。

これはすべてにおいてそうで、初めて馬券を買ったときも、どこへ行くか聞かされず勝手に連れて行かれ、競馬新聞を見せられ予想させられた。
僕の予想が当たったのだが、「これは飯代」といわれ、これもなにを食べたいか聞かれず「とんかつ屋」で、ロースカツを食べさせられた。
僕はヒレが好きなのだが、そんなことを聞いてくれる人ではない。
その後飲んだ初めてのアイスコーヒーも、ミルクとガムシロをウエイターに下げさせ「これでいい」と飲まされた。
小学生には苦いだけだった。

話が逸れた。
我が家のキャッチボールは、他とは違った。
父がピッチャーをやるのだ。
理由は簡単。
父が楽しい方を取っているだけだ。
それも加減はしない。
思いっきり投げてくる。
避けると「捕れ」と怒鳴り、顔で受けると「軟球だから死なない」と笑われる。

しかし子供の進歩とは恐ろしいもので、慣れてきて恐怖感がおさまると捕れるようになる。
そうなると今度は黙ってカーブを投げられる。
これを逸らすと、「いつも同じだと思うなよ」
そう言い笑っている。
性質が悪い。
そして自分が飽きると、「終わり!」といって家に戻ってしまうのだ。

「遊びに加減はいらない、そんなことを子供のときに覚えると、ろくな大人にならない。親父と息子ならよけいだ。悔しかったら、オレより上手くなれ」
父はこと遊びに関してはうるさかった。

僕が中学ぐらいになり、家に友人を呼んでいると必ず混ざろうとした。
だいたい迷惑そうな顔をするのだが、ひとり父と仲良くなった友人がいた。
その友人は地元では有名な不良少年だった。
実体は、不良ではなくただケンカが並外れて強かっただけなのだが、どこへ行っても、そのイメージが先行し歓迎はされなかったという。
しかし父は子供を差別するような人ではなかった。
そして彼が来ていたある日のこと、
「大人になれば、翌日のことなど考えず遊ぶ機会が減ってくる。だから大人になって遊びを覚えるとろくなことにはならない。お前は顔がいいから女には気をつけろ」
と冗談交じりに言った。
そして彼が帰った後、僕には、
「男同士の友達っていうのは、ケツの穴のしわの数まで知っているというほど深くならなきゃダメだ」
と言った。
別に変な意味ではなく、大事にしろということだったのだろう。
その友人とは今でも付き合いが続いている。

僕と父のキャッチボールは、父が一方的に投げ、少し大人になった僕が投げ返せる球を持ったとき、唐突に終わった。
それは僕の23歳最後の日だった。
きっちりしていることが好きな、父らしい逝き方だった。

信号が変わり、バスが動き始める。
キャッチボールの親子の姿が、窓から離れていく。
座席の上で、手のひらを見る。
投げ返せなかったボールがまだ手の中に残っている。
でももう返す相手はいない。
あれからもう随分時が経ったというのに、父の姿が浮かんでくる。
夢の中では、受け取ってくれるのだろうか。

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ryoukouno

紘野涼です。
「スワローズ観察日記R」の管理人
仕事はフリーランスでライターやプランナーなどその他もろもろという感じです。
こちらではメインブログ、仕事では書けないようなもの、これまで書き散らかしたものをまとめていこうを思っています。
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